あらすじ(ネタバレなし)
新井紀子による、ベストセラー『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』の続編。AIの開発・「東ロボくん」プロジェクトを率いた著者が、AIが苦手とする「読解力」を子どもたちがどう身につけられるかを、教育現場の実践例や体験版リーディングスキルテスト(RST)を交えて解説するノンフィクションです。
聴いた感想
『AIに負けない子どもを育てる』という題名から、私は当初、プログラミングや創造力など、機械にはない特別な能力を伸ばす教育について書かれた本だと思っていた。しかし、本書が繰り返し問いかけてくるのは、もっと地味で根本的な「文章を正確に読む力」である。
読解力というと、国語のテストで筆者の気持ちを答える能力を想像しやすい。だが本書で扱われる読解力は、書かれている文の構造や言葉同士の関係を捉え、勝手な思い込みを加えずに意味を理解する力だ。これは勉強だけでなく、人と関わるための基礎でもあると感じた。
本書を読みながら私が気になったのは、子どもが教科書を読めているかという問題より、大人は子どもの言葉を本当に読めているのかということだった。
たとえば、子どもが「学校に行きたくない」と言ったとき、大人は「怠けたいのだ」「友達とけんかしたのだ」「最近の子は我慢が足りない」と、すぐに理由を補ってしまう。しかし、本人はまだ理由をうまく説明できていないだけかもしれない。教室の音が苦痛なのか、失敗を見られるのが怖いのか、自分でも分からない疲れを抱えているのかもしれない。
相手の言葉を最後まで確認せず、目立つ単語からもっともありそうな意味を推測する。これは本書で問題にされている、文章をキーワードだけで処理する読み方によく似ている。皮肉なことに、AIに負けない子どもを育てようとする大人のほうが、子どもの言葉をAIのように処理している可能性がある。
親や教師は、人生経験がある分、子どもの話の続きを予測できてしまう。その予測は多くの場合、効率的で正しいのだろう。だが、正解を早く出すことと、目の前の人を正確に理解することは同じではない。
読解とは、分からないものをすぐに分かったことにしない力なのではないか。
文章中の主語を確認することも、指示語が何を指すか考えることも、自分の印象より先に、そこに書かれている情報を尊重する行為である。人との会話でも同じように、相手が実際に話したことと、自分が勝手に補った物語を区別しなければならない。
そう考えると、読解力を育てることは、単なる受験対策ではない。それは、自分とは異なる他者を、自分に都合のよい人物へ変換せずに受け止める訓練でもある。
AIは大量の情報から、もっとも確率の高い答えを素早く提示する。一方、人間には、答えが出ない状態にとどまり、「まだ分からないから、もう少し聞かせてほしい」と言うことができる。人間の強さは、AIより早く正解を出せることではなく、正解を急がず、一人の相手に時間を使えることにあるのかもしれない。
本書を読み終えて、「AIに負けない子ども」とは、AIより優秀な答えを出せる子どもではないと思った。文章や人の言葉を丁寧に受け取り、自分の思い込みを疑い、分からないことを分からないまま考え続けられる子どもなのだろう。
そして、その力を育てる第一歩は、教材を増やすことではない。大人が子どもの言葉を先回りせず、最後まで聞くことなのだと思う。AIに負けない子どもを育てられるかどうかは、まず大人が、子どもを雑に読まないことから始まる。
こんな人におすすめ
- 子どもとの会話で「先回りして理由を決めつけてしまう」と感じることがある人
- 教育・読解力に関心がある人
- 前作『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』を読んだ人

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