彼女が探偵でなければ|痛くてやさしい「子どもたちのミステリ」をAudibleで聴く

「ミステリが好きだけど、ただの謎解きだけじゃ物足りない」
「読後にじわっと残る“痛さ”も含めて味わいたい」

そんな人に刺さるのが、逸木裕さんの連作短編集
**『彼女が探偵でなければ』**です。

2024年9月にKADOKAWAから刊行され、
リアルサウンドの「国内ミステリーベスト10」で第1位を獲得し、
さらに**第25回本格ミステリ大賞(小説部門)**も受賞した、今かなり注目されている一冊。

そして2025年11月、
Audibleオリジナル朗読版としても登場しました。


基本情報(紙+Audible)

  • タイトル:彼女が探偵でなければ
  • 著者:逸木 裕(いつき ゆう)
  • 出版社:KADOKAWA
  • 形式:連作ミステリ短編集(全5編)
  • 紙・電子の発売日:2024年9月28日

Audible版

  • 配信日:2025年11月28日
  • 再生時間:約9時間28分
  • ナレーター:水谷麻鈴(みずたに まりん)
  • 制作:KADOKAWA(ONLY FROM Audible)

どんな話?(ネタバレなしのざっくり概要)

主人公は、私立探偵の森田みどり
高校時代に“探偵ごっこ”から始まり、
「人の〈本性〉を暴かずにはいられない」性質のまま、
気づけば二児の母となり、探偵社で部下を持つ立場になっています。

本作はそんなみどりが、
「子どもたち」をめぐる事件・謎に向き合う連作短編集です。

収録作はこの5編(タイトルだけ紹介)

  1. 時の子
  2. 縞馬のコード
  3. 陸橋の向こう側
  4. 太陽は引き裂かれて
  5. 探偵の子

どの話にも、“子ども”と“本性”が絡みます。

  • 父を亡くした少年
  • 「千里眼」を持つと言われる少年
  • 父を殺す計画をノートに書く少年

そうした存在に引き寄せられるように、
みどりは真実を追い、その代償として
誰かを傷つけてしまうかもしれない自分と向き合わされていきます。

「こうなることを知っていたら、私は探偵をやめていただろうか。」

帯にもあるこの一文どおり、
“探偵の仕事そのもの”に対して問いを投げかけてくる一冊です。


シリーズとしての位置づけ

森田みどりシリーズは、

  • 長編『虹を待つ彼女』
  • 連作短編集『五つの季節に探偵は』(短編「スケーターズ・ワルツ」で日本推理作家協会賞短編部門受賞)

と続いてきた作品世界で、本作はその第2短編集にあたります。

とはいえ、『彼女が探偵でなければ』単体でも十分に読める(聴ける)構成なので、

  • いきなりここから入ってもOK
  • 気に入ったら前作に戻る、という順番でも問題なし

というタイプのシリーズです。


実際に聴いたときの印象(感情寄り)

「謎解き」よりも、そのあとに残る“後味”のほうが強い

本格ミステリ大賞を取っているだけあって、
もちろん謎はきっちり回収されます。

ただ、この本の本当にグッとくるところは、

  • 真相が明らかになった瞬間の爽快感
    よりも、
  • 「それを知ってしまったら、もう元には戻れないよね」
    という取り返しのつかなさ

のほうなんですよね。

子どもたちの行動や感情が、
「単純な善悪では割り切れない形」で描かれていて、
みどりがそれを暴いた結果、
“大人としてどう責任を取るのか”が常に問われます。

探偵=正義、では済まない世界

森田みどりは、
ある意味「プロフェッショナルとして優秀すぎる探偵」です。

  • 嘘を見抜く
  • 本性を炙り出す
  • その場の空気を一瞬で変える

一方で、

「本性を暴くこと」=「その人にとっての救い」とは限らない

という冷たさも、作品の中で何度も突きつけられます。

聴き終わったあとに、
「じゃあ自分が彼女の立場だったら、どうする?」 と考えさせられる。
そんなタイプのミステリでした。


各エピソードの雰囲気(ネタバレなし・一行ずつ)

※中身の“謎”には触れず、空気感だけ。

  • 「時の子」
    父を亡くした少年と時計職人の話。時間が止まってしまった家族に、みどりの視線が入り込むことで、止まっていた“何か”が少しだけ動き出すような物語。
  • 「縞馬のコード」
    「千里眼」を持つと言われる少年。彼の“能力”を信じたい大人たちと、その裏側にある現実がひりっと痛い一編。
  • 「陸橋の向こう側」
    父を殺す計画をノートに綴る少年。タイトルからして不穏で、実際かなり重め。シリーズの中でも評価が高い中編で、読みごたえ(聴きごたえ)抜群。
  • 「太陽は引き裂かれて」
    太陽=家族/未来/希望 といったモチーフが、じわじわと別の意味を帯びていく話。タイトルの時点で胸がざわつく系。
  • 「探偵の子」
    シリーズの根っこにある「探偵の業(ごう)」に、みどりが向き合う締めの一編。タイトルを見た時点で軽く覚悟が必要。

どの話も「子ども」が中心にいながら、
実際に切り裂かれていくのは大人の側の言い訳や、見たくない本性なんですよね。


Audible版の聴き心地:水谷麻鈴さんのナレーション

『彼女が探偵でなければ』Audible版では、
水谷麻鈴さんがすべて朗読を担当しています。

再生時間は約9時間半。
短編集とはいえ1話1話がしっかり長さのある構成で、
通勤・家事の“ながら聴き”だと数日〜1週間くらいかけて味わうボリューム感です。

良かったところ

  • 情報を淡々と読み上げるところと、
    感情が揺れるシーンの抑揚の付け方にメリハリがある
  • 子ども・大人・男女の声のニュアンスを、
    無理に作り込まず自然な範囲で演じ分けている
  • みどりの一人称/地の文が、少し乾いていながらも、芯のある声でハマっている

ミステリは「説明セリフ」が多くなりがちですが、
水谷さんの読み方だと**“聞き疲れ”が出にくく、スッと頭に入ってくるタイプ**だと思います。

シリーズ前作『五つの季節に探偵は』も同じく水谷さんが朗読しているので、
**通しで聴くと“みどりの人生をずっと見てきた感じ”**が出るのもいいところです。


どんな人におすすめ?

✅ がっつり「謎だけ」を楽しみたい人より…

  • 人間ドラマ強めのミステリが好きな人
  • 子どもや家族が絡む話に弱い人
  • 「探偵=正義」とは言い切れない物語が読みたい(聴きたい)人

に特に刺さるタイプです。

✅ Audibleとの相性もかなり良い

  • 会話シーンが多く、人物関係が把握しやすい
  • 地の文も難解さは少なく、耳からでも追いやすい
  • 1話ごとに区切りがあるので、通勤1〜2日=1編くらいのペースで聴ける

「活字だと重くて進まないけど、音声なら入り込めるタイプのミステリ」なので、
Audibleで“ちょっと重めの連作ミステリ”に挑戦したい人にかなり向いています。


まとめ:痛さも含めて受け止めたい人向けの一冊

『彼女が探偵でなければ』は、

  • 「子どもたち」をめぐる謎
  • それを暴かずにはいられない探偵・森田みどり
  • 謎解きの先にある“取り返しのつかなさ”

を、静かだけど強い筆致で描いた痛切な連作ミステリです。

Audible版では、水谷麻鈴さんの落ち着いたナレーションが、
みどりの視線と物語のビターさをじわじわと伝えてくれます。

  • テンション高めのエンタメミステリ
    というよりは、
  • 「静かな痛みが、あとからジワジワ効いてくるタイプ」

なので、

「今日は気持ち的にちょっと重いもの、でも質の高いミステリが聴きたい」

という日に、
通勤・帰り道・夜のひとり時間のお供として再生してみるのがおすすめです。

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